具体的事例紹介

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「公園のベンチに置き忘れられたポシェットをとった場合は、窃盗罪?占有離脱物横領罪?」(最決平成16年8月25日刑集58巻6号515頁)

事実の概要

 被害者(以下、Yとします)が公園のベンチにポシェットを置き忘れたままベンチから離れたところ、被告人(以下、Xとします)はそのポシェットを公園内のトイレに持ち込み、ポシェット内から現金を抜き取りました。しかしその後Yが公園にポシェットを置き忘れたことに気付き戻ったのですが、すでに本件ポシェットはなくなっていました。そこでYの友人がポシェット内のYの携帯電話に架電したためトイレ内で携帯電話が鳴り、Xが慌ててトイレから出ましたが、Yらに問い詰められ犯行を認めたのです。1審、2審とも、Yが公園のベンチに本件ポシェットを忘れたことに気付き戻った際、ポシェットから離れた距離、時間は短く、Yの本件ポシェットに対する占有は失われていなかったとして、Xの行為は窃盗罪に当たるとしました。

決定要旨

 「Xが本件ポシェットを領得したのは、Yがこれを置き忘れてベンチから約27mしか離れていない場所まで歩いて行った時点であったことなど本件の事実関係の下では、その時点において、Yが本件ポシェットのことを一時的に失念したまま現場から立ち去りつつあったことを考慮しても、Yの本件ポシェットに対する占有はなお失われておらず、Xの本件領得行為は窃盗罪に当たるというべきであるから、原判断は結論において正当である」。

判例の考察

 所持品を「置き忘れた」ケースに比べて、「意識して置いた」ケースでは被害者の占有が認められやすいですが、置き忘れた場合であっても被害者の占有を認めたことに本判決の特徴があります。

 本判決は、原審では判示していなかった「Yが本件ポシェットから約27m離れた時点」という事実を強調し、Yが本件ポシェットのことを一時的に失念して現場から離れたことを考慮しても、本件ポシェットに対するYの占有はなお失われていなかったとして、原審同様、窃盗罪の成立を認めたのです。本判決は、占有が存続しているか否かの判断において、時間的・距離的な近さを重視していることに意義があると考えられます。

 一方で別の事案において、大型スーパーの6階にあるベンチに札入れを置き忘れ、10分後、地下1階で気付いたときには既に奪われていたケースでは、被害者の占有は認められませんでした(東京高判平成3年4月1日判時1400号128頁)。

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